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大分地方裁判所 平成8年(行ウ)4号 判決 1999年11月29日

原告

岩崎博

右訴訟代理人弁護士

吉田孝美

岡村正淳

被告

大分税務署長 坂元昭雄

右指定代理人

星野敏

和多範明

曽根崎仁志

五嶋繁喜

渡邊康博

田川博

林俊生

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が原告に対してなした別紙処分目録記載の各処分(以下「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告の税務調査に基づいて、所得税の修正申告及び消費税の期限後申告をした原告が、申告の基礎となる事業所得の帰属者が原告とは異なると主張して、右各申告の税額等について更正の請求をしたが、被告が所得税につき更正をすべき理由がない旨の通知処分及び消費税につき更正をしない旨の通知処分をしたので、その取消しを求めるとともに、被告が右修正申告及び期限後申告に基づいて課した重加算税賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、平成三年分ないし同五年分(以下「本件各年分」という。)の所得税について、別表1の「確定申告」欄記載のとおりの期限内申告書を提出した。

2  原告は、法定申告期限内に、平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の確定申告書を提出しなかった。

3  平成六年一一月八日及び同月一〇日に原告に対する被告の税務調査(以下「本件調査」という。)が行われ、これに基づき、原告は、平成六年一二月一六日、本件各年分の所得税について、別表1の「修正申告」欄記載のとおりとする修正申告書を提出する(以下「本件修正申告」という。)とともに、本件課税期間の消費税について、課税標準額を六五二四万八〇〇〇円、納付すべき税額を一一四万二五〇〇円とする期限後申告書を提出した(以下「本件期限後申告」という。)。

4  被告は、原告がレジペーパーを改ざんするなどして真実の売上金額等を仮装・隠ぺいした上で所得税の期限内申告を行い、消費税の期限内申告を行わなかったとして、平成七年一月一三日付けで、本件修正申告に基づき、別表1の「賦課決定処分」欄記載のとおりの重加算税賦課決定処分(以下「本件所得税の賦課決定処分」という。)をし、本件期限後申告に基づき、重加算税額を四五万六〇〇〇円とする重加算税賦課決定処分をした(以下、「本件消費税の賦課決定処分」という。また、本件消費税の賦課決定処分と本件所得税の賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。

5  原告は、同年二月二〇日、本件各賦課決定処分について異議申立てをしたが、同年五月一七日付けで棄却された。

6  原告は、同年二月二〇日、本件修正申告に係る総所得金額及び納付すべき税額につき、別表1の「更正の請求」欄記載のとおりとする更正の請求書を提出し(以下「本件所得税の更正の請求」という。)、本件期限後申告に係る課税標準額及び納付すべき税額につき、いずれも〇円とすべき旨の更正の請求書を提出した(以下「本件消費税の更正の請求」という。)。

7  被告は、同年五月一七日付けで、本件所得税の更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知処分をし、本件消費税の更正の請求に対し、更正をしない旨の通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。

8  原告は、本件各通知処分について異議申立てをしたが、棄却された。

そこで、原告は、同月二六日、本件各賦課決定処分及び本件各通知処分について審査請求をしたが、国税不服審判所は、平成八年七月二日付けで棄却の裁決をし、同裁決書は同月一二日原告に到達した。

二  争点

1  平成三年分及び同四年分に関する本件所得税の更正の請求が更正の請求期間を徒過した不適法なものであるか否か

(被告の主張)

平成三年分及び同四年分に関する本件所得税の更正の請求は、国税通則法(以下「法」という。)二三条一項に規定する法定申告期限から一年以内の更正の請求期間を経過した後になされたものであり、かつ、同期間を経過した後になされたことにつき同条二項三号に規定する「やむを得ない理由」があったとは認められないから、不適法なものである。

(原告の主張)

(一) 法七〇条二項は、納付すべき税額を減少させる更正は法定申告期限から五年を経過する日まですることができる旨規定しているが、この規定は、税務署長の自由裁量を認めるものではなく、減額更正すべき理由があることを知ったときは、これをしなければならない旨を定めたものと解すべきである。

したがって、更正の請求期間が経過した後の更正の請求であっても、法定申告期限から五年以内は、減額更正すべき理由があるときは、更正しなければならないので、平成三年分及び同四年分に関する本件所得税の更正の請求は適法なものとなる。

(二) 本件修正申告は後記3の原告の主張記載の違法な被告の行為に基づいてなされたものであるから、平成三年分及び同四年分に関する本件所得税の更正の請求には、国税通則法施行令六条一項三号に準じた法二三条二項三号所定の「やむを得ない理由」があるものであり、かつ、本件修正申告に基づく本件所得税の賦課決定処分が平成七年一月一三日になされてはじめて原告はことの重大性を自覚して更正の請求を検討し得る状況となったので、同日が法二三条二項三号に規定する「当該理由が生じた日」に該当し、平成三年分及び同四年分に関する本件所得税の更正の請求は、その翌日から起算して二月以内になされているので、違法なものである。

2  本件各年分の大分パリス店に係る事業所得の帰属者

(原告の主張)

別表1の「修正申告」欄記載の各年分の事業所得の金額は、理容店である大分パリス店に係る事業所得であるが、当時の大分パリス店の事業主は原告の父である岩崎正雄(以下「正雄」という。)であって、原告は同店店長の肩書を持った正雄の従業員であった。

したがって、右事業所得は正雄に帰属し、原告は正雄から別表1の「更正の請求」欄記載の各年分の給与所得の金額を受けていたにすぎないものであるから、本件所得税の更正の請求は理由があり、本件所得税の賦課決定処分は違法である。

また、右事業所得が正雄に帰属することから、消費税の納税義務者は正雄となるので、本件消費税の更正の請求は理由があり、本件消費税の賦課決定処分は違法である。

(被告の主張)

本件各年分における大分パリス店の事業主は原告であり、右事業所得は原告に帰属していた。

3  原告主張の本件調査の違法及び本件修正申告・本件期限後申告強要の違法の存否並びにこれが本件各処分の違法事由となるか否か

(原告の主張)

本件修正申告及び本件期限後申告は、本件調査に基づき、被告が、修正申告書及び期限後申告書を作成してその提出方を原告に強要し、原告の異議にもかかわらず、大分パリス店従業員黒木禮子(以下「黒木」という。)に署名押印を代行させて提出させた瑕疵のあるものであるし、本件調査は、被告が、原告や黒木の同意なしに大分パリス店や黒木の自宅の調査を行い、大分パリス店の運営に支障を及ぼさないような配慮を払わず、原告や黒木の自由な意思を抑圧する強権的な方法でなした違法なものであった。

したがって、本件修正申告及び本件期限後申告は、違法な税務調査並びに修正申告及び期限後申告の強要によるものであって瑕疵があり、これらを前提とした本件各処分は違法である。

(被告の主張)

本件調査に違法はなく、また、原告は任意に本件修正申告及び本件期限後申告に応じているのであるから、本件修正申告及び本件期限後申告は有効なものであって、本件各処分も適法である。

第三争点に対する判断

一  平成三年分及び同四年分に関する本件所得税の更正の請求が更正の請求期間を徒過した不適法なものであるか否か(争点1)について

1  法二三条一項は、法定申告期限から一年以内に限り更正の請求ができる旨規定しているところ、本件所得税の更正の請求は平成七年二月二〇日になされているので、本件所得税の更正の請求中、平成三年分および同四年分に関する部分は法定申告期限から一年以内の更正の請求期間を徒過していると認められる。

2  原告の主張(一)について

原告は、法七〇条二項を根拠に、減額更正の場合は法定申告期限から五年間更正の請求ができる旨主張するが、法七〇条二項は職権による更正を行う場合の期間制限を定めたものであり、納税者の権利である更正の請求の請求期間は専ら法二三条により定まるものであるから、原告の右主張を採用することはできない。

3  原告の主張(二)について

法二三条二項三号は、同条一項の例外を認める「やむを得ない理由」を政令で定める場合に限定しており、これを受けた国税通則法施行令六条一項三号は、法定申告期限から一年が経過した後であっても、帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合には、当該事情が消滅した日の翌日から起算して二月以内に更正の請求ができる旨規定する。

ところで、この規定は、法定申告期限から一年以内の更正の請求期間内に帳簿書類その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合は、これらが計算できるようになってから二月以内に更正の請求ができることを認めた規定である。したがって、同規定の準用を認めるとしても、それは、法定申告期限から一年以内の更正の請求期間内に国税の課税標準等又は税額等を計算することができない事由が存した場合に限定されるべきであって、法定申告期限から一年を超えた後に発生した原告の主張するような事由が存するとしても右規定は準用されないものである。

その他、原告が主張する事由は、法二三条二項、国税通則法施行令六条一項の他の規定にも該当しない。

よって、原告の右主張も採用することができない。

4  以上によれば、平成三年分及び同四年分に関する本件所得税の更正の請求は更正の請求期間を徒過した不適法なものであるから、本件各通知処分中、右更正の請求に対する部分は適法である。

二  本件各年分の大分パリス店に係る事業所得の帰属者(争点2)について

1  前記争いのない事実、証拠(甲八ないし一〇、一四、二三、二四、三一、四三の1ないし一四の各1、2、四五、乙一三の1ないし3、一四の1、2、一五、一六、一七の1ないし4、一八の1、2、一九、二〇の1ないし3、二一ないし二五、二六の1ないし3、二七の1、2、二九の1、2、三〇、三一、三三の1ないし5、三四の1ないし6、三七の1の1、2、三七の2、三七の3の1、2、原告)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 正雄は、宮崎県日向市に所在するパリス本店を本拠として、日向市、同県延岡市、大分県佐伯市において数店の理容店(以下「パリスグループ店」という。)を経営していたが、昭和六三年五月、大分市に大分パリス店を開店した。

正雄の次男である原告は、中学卒業後、正雄経営の理容店で修業を開始し、当時パリス本店に勤務していたが、大分パリス店開店に際し、同店店長として派遣された。

(二) 大分パリス店開店に際し、正雄は、理容器具一式及び内外装一式を割賦販売により調達し、その割賦金を正雄名義の口座から支払っていたが、平成四年四月二三日、その支払口座は豊和銀行東支店の理容パリス岩崎博名義の普通預金口座(口座番号三二八一〇〇、以下「理容パリス岩崎博名義口座」という。)に変更され、以後平成五年四月の割賦金支払完了まで同口座から支払われた。

(三) 大分パリス店開店後、大分パリス店の電気代、電話代、水道代、ガス代は正雄名義の口座から支払われていたが、これらは平成四年三月から理容パリス岩崎博名義口座から支払われるようになった。

(四) 正雄は、平成三年五月二四日、大分パリス店の駐車場契約を締結したが、その後、原告は、同年一二月五日、大分パリス店の事業用資産であるコピー機のリース契約を締結し、そのリース代金を豊和銀行東支店の原告名義の普通預金口座(口座番号二九七三六〇、以下「原告名義口座」という。)から支払った。

また、原告は、平成五年二月二三日、大分パリス店の事業用資産である電子レジスター機のリース契約を締結し、そのリース代金を理容パリス岩崎博名義口座から支払った。

そして、平成三年九月からは、原告名義で税理士に大分パリス店に係る記帳報酬を毎月支払うようになった。

(五) 原告は、平成三年五月三一日、国民金融公庫から、大分パリス店の運転資金として八〇〇万円を借り入れて、その分割返済を原告名義口座を通じて行った。

また、原告は、同年一一月六日、原告名義の定期預金五口合計五〇〇万円と正雄が供した定期預金一口一〇〇万円を担保として、豊和銀行東支店から大分パリス店の営業用資金として六〇〇万円の手形貸付を受け、同年一二月三一日に三〇〇万円を返済し、平成四年一月三一日に原告名義の定期預金二〇〇万円を解約して、残額三〇〇万円を返済した。

(六) 原告は、大分パリス店の売上金によって、平成四年三月から同五年一二月までの間、毎月二〇万円の金融商品名ビッグの貸付信託を行った。

また、原告は、平成四年及び同五年に、数人の大分パリス店の従業員やその子息に、数十万円単位の貸付を行った。

(七) 原告は、平成三年七月一一日、被告に対し、原告の大分パリス店業務開始日を同年五月一日とした所得税の青色申告承認申請書及び給与支払事務所等の開設届出書を提出するとともに、大分パリス店の同年五月一日以降の事業所得が自己に帰属するものとして、本件各年分の期限内申告を行い、平成三年分から大分パリス店の従業員の給与の源泉所得税を納付した。

また、原告は、平成四年七月二〇日、国税納付のための預金口座振替依頼書を被告に提出し、同口座として理容パリス岩崎博名義口座を指定した。

(八) 大分パリス店は、平成六年一月一〇日、原告を代表取締役とする有限会社大分パリスとして法人成りしたが、有限会社大分パリス代表取締役原告は、同月二七日、原告の個人企業であった大分パリス店を法人組織にしたとして、法人設立届出書を被告へ提出した。

2  右認定事実に照らせば、証人岩崎正雄の証言及び同供述記載(甲一四)、証人黒木禮子の証言、原告の供述及び同供述記載(甲二、一〇)並びに甲第五ないし第七及び第四〇号証の各供述記載中、本件各年分の大分パリス店の経営者が正雄であったとの原告主張に沿う部分は措信できず、かえって、右認定事実によれば、大分パリス店は、当初正雄が経営していたが、平成三年五月一日、経営者を原告に変更して、その旨の届出を被告に行い、以後、順次、大分パリス店の取引口座を正雄名義の口座から原告名義の口座に変更して、従前の正雄の割賦金支払や公共料金支払を原告の支払に変更し、右時点直後の同月二四日には正雄名義で大分パリス店の駐車場契約を締結したこともあったが、以後の事業用資産調達や運転資金調達を原告名義で行い、税理士に対する記帳報酬を原告名義で支払うようになり、大分パリス店の売上げによって生じた利益を原告名義の貸付信託にしたり、原告において従業員等に対し貸付を行い、本件各年分の確定申告においても大分パリス店の平成三年五月一日以降の事業所得は原告に帰属するものとして原告から申告がなされる等していたのであるから、同日以降の大分パリス店に係る事業所得の帰属者は原告であったと認められる。

これに対し、原告は、前記1(七)記載の被告に対する申請・申告等は税理士が勝手に行ったもので、原告は関与しておらず、大分パリス店の取引口座を原告名義にしたり、リース契約等を原告名義で行ったのは税理士やパリス本店から指導されて行ったものであって、前記1(五)記載の借入金は、パリス本店のエステ部門開店のための費用に使用する等、パリスグループ店のために使用する目的で借り入れられたものであり、従業員等に対する貸付も原告の給与からの貯蓄等によってなされたものである等と主張し、証人岩崎正雄の証言及び同供述記載(甲一四)並びに原告の供述及び同供述記載(甲一〇、四一)中には右原告主張に沿う部分もあるが、同部分は、その供述内容自体不自然・不合理であったり、曖昧であったりする上、その主張が変遷したり、前後矛盾する供述もあって、にわかに措信できない。

3  また、原告は、<1>大分パリス店の売上金のうち、同店の経費支払に充てられたもの以外は、黒木名義の郵便貯金口座に入金され、パリス本店のカードで引き出したり、現金でパリス本店に運ばれて、パリスグループ店のために使用されていて、<2>大分パリス店の営業記録はすべてパリス本店に送付され、パリス本店において月計売上集計表を作成しており、<3>大分パリス店の従業員の採用は正雄が行っていて、<4>原告は正雄から給与の支払を受けて働いていた者であり、<5>正雄は大分パリス店で陣頭指揮しているから、大分パリス店が法人成りした平成六年一月一〇日まで引き続き正雄が同店の経営者であって、本件各年分の大分パリス店に係る事業所得は正雄に帰属すると主張する。

そして、確かに、証拠(甲五ないし七、一〇、一一の1ないし5、一三、一四、一九ないし二二、三九、四〇、四五、乙三五の1ないし4、四一、証人黒木禮子、同岩崎正雄、原告)及び弁論の全趣旨によれば、本件各年分において、大分パリス店の売上金の一部が黒木名義の郵便貯金口座に入金され、パリス本店がカードで引き出していたり、同売上金の一部が現金でパリス本店に運ばれていたこと、大分パリス店の営業記録はすべてパリス本店に送付され、パリス本店において決算書類、税務書類を作成し、原告名義での申告所得税・源泉所得税・個人事業税の納付事務を行ったり、税理士に対する報酬支払をしていたこと、大分パリス店の従業員はパリスグループ店から回されてきたり、正雄が宮崎県下から連れてきたこと、平成五年の大分パリス店の給与明細書及び賃金台帳には、同店の他の従業員とともに原告の給与が記載されていること、正雄はしばしば大分パリス店に来ており、大分パリス店の従業員の給与額や手当の額を決めるについて、原告は正雄の意見に従っていたことが認められる。

しかしながら、原告と正雄は親子である上、大分パリス店はもともと正雄が経営していた理容店パリスグループの一店舗であって、原告も従前正雄の下で修業し、大分パリス店開店に当たり正雄から店長として派遣されてきたものであるから、大分パリス店の経営者が原告に変更されても、大分パリス店が岩崎家の家業である理容店パリスグループに属し、正雄の支配下にあることに変わりはなく、このことは、チェーン店の本部と各チェーン店の関係や親会社と子会社の関係に似ているが、原告と正雄が親子であって、パリスグループが岩崎家の家業であることから、これらの関係以上に正雄の原告に対する支配力は強かったものと考えられる。

したがって、大分パリス店の経営者が原告に変更された後も、大分パリス店の経理等の事務をパリス本店に委託し、その従業員の供給を正雄に頼り、正雄がしばしば大分パリス店を監督し、大分パリス店の従業員の給与額や手当の額を決める際に原告が正雄の意見に従っていたとしても、右のような関係にあることに照らすと不自然なことではなく、前記1認定の事実関係が存するにもかかわらず、これらの実態が存するからといって、大分パリス店が法人成りするまで継続して正雄が経営者であったと認定することはできない。

また、黒木名義の郵便貯金口座を通じてパリス本店が大分パリス店の売上金を引き出していたり、同売上金が現金でパリス本店に運ばれていた点についても、パリス本店が大分パリス店の経理等の事務を行っていたことに伴い、前記納税・報酬等の大分パリス店の経費の一部を支払うのにこの引出金等を使用していたものと考えられるし、この引出金等がパリスグループ店のために使用されたとしても、前記認定事実に照らせば、それは、原告が家業であるパリスグループを援助するために贈与又は貸付を行ったものと認められ、これらのことは、大分パリス店が法人成りした平成六年一月一〇日以降においても、右口座から大分パリス店の経費支払金やパリスグループ店に対する援助金が引き出されていること(乙四一、甲一〇、四一、四六、四七)からしてもいえることである(なお、原告は、右引出金の性質が法人成り前後で異なると主張し、甲第四一及び第四六号証には同主張に沿う供述記載部分があるが、同部分はその内容自体不自然なものであって、直ちに措信できない。)。

さらに、給与明細書及び賃金台帳に原告の給与が記載されている点についても、原告は経営管理だけを行っていたのではなく、他の従業員と同様に大分パリス店の理容業務に従事していたのであって(原告)、このような個人企業の経営者が自己の労働分を経費として評価するとともに、個人企業の収益のうち自己の生活費部分とこれを控除した企業の収益部分とを峻別するために、自己に対する給与額を決めることは世上見受けられることであり、これに加えて、前記認定の大分パリス店のパリスグループ内における立場を考慮すると、原告の労働分である原告の生活費部分とこれを控除した大分パリス店の収益部分とを峻別する必要性は高かったものと認められ、他方、原告は、前記認定のとおり、大分パリス店の売上金で貸付信託をしたりして、右給与額以外の大分パリス店の利益金を収受しているのであるから、右給与の記載によって、原告の主張を認めることはできない。

その他、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。

よって、原告の主張は失当である。

三  原告主張の本件調査の違法及び本件修正申告・本件期限後申告強要の違法の存否並びにこれが本件各処分の違法事由となるか否か(争点3)について

1  本件各通知処分について

法二三条一、四項によれば、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の納付すべき税額等が過大であったときに更正の請求が理由あるものとして、減額更正されるものであるから、原告の主張する事由は更正の請求の理由とはなり得ず、したがって、右事由は本件各通知処分の違法事由とはならない。

2  本件各賦課決定処分について

(一) 法六八条一、二項、六五条一項、六六条一項によれば、重加算税は、修正申告書の提出があったり、期限後申告書の提出があった場合に、法三五条二項の規定により納付すべき税額を基礎として課されるものであるから、修正申告書や期限後申告書の提出があったとしても、それらが無効な場合は重加算税を課すことはできないものであるが、それらが無効でない限り、右各法条所定の要件を充たせば、重加算税賦課決定処分が違法となることはない。

したがって、仮に、本件調査に原告主張の違法性が存したとしても、それだけで本件各賦課決定処分が違法となることはなく、本件修正申告や本件期限後申告が無効とならなければ、本件各賦課決定処分は違法とならないものである。

(二) よって、本件修正申告や本件期限後申告が無効であるか否かについて判断するに、証拠(乙一二、証人濱田敏廣、同黒木禮子)によれば、被告が、本件調査に基づいて、原告に対し本件修正申告や本件期限後申告を行うよう求めたところ、原告はこれに応じて、同席していた黒木に、被告の用意していた右各申告書用紙への署名の代筆及び捺印の代行をさせた上、右各申告書を提出したことが認められ、原告の供述及び同供述記載(甲二、一〇)並びに証人黒木禮子の証言及び同供述記載(甲三)中右認定に反し、原告の主張に沿う部分は、前掲各証拠と対比して、また、右各申告書提出後、原告が被告担当者と握手して別れたり(甲一〇、乙一二、証人濱田敏廣)、黒木が、原告との連名で、翌正月に被告の担当者らに対し、本件調査に対するお礼を記載した年賀状を差し出していること(乙一二、証人黒木禮子)に照らして、措信できない。

そうすると、右認定事実によれば、右各申告書は原告の意思に基づいて提出されたものと認められるので、本件修正申告や本件期限後申告が無効であるとはいえない。

第四結論

よって、原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一一年七月二六日)

(裁判長裁判官 一志泰滋 裁判官 脇博人 裁判官 小松本卓)

処分目録

一、平成三年分、平成四年分及び平成五年分の所得税について原告がした各更正の請求に対して被告が平成七年五月一七日付でした更正をすべき理由がない旨の通知処分

二、被告が原告に対し平成七年一月一三日付でした平成三年分、平成四年分及び平成五年分の所得税に係る重加算税の各賦課決定処分

三、平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税について原告がした更正請求に対して被告が平成七年五月一七日付でした更正をしない旨の通知処分

四、被告が原告に対し平成七年一月一三日付でした平成五年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税に係る重加算税の賦課決定処分

別表1

<省略>

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